蜩ノ記

テアトル6、評価★★★★
小泉堯史監督の時代劇。予告からもその雰囲気は伝わってきたけど、穏やかな雰囲気の映画で心地よく見られた。もちろん、主役である戸田秋谷が何故に切腹をしなければいけなかったのか、というミステリー的な要素もあるけども、どちらかというとそういう事件を踏まえつつ取り巻く人々の縁を描いた物語であったと感じる。
戸田秋谷を演じた役所広司さんの強さとユーモア感に対して、壇野を演じた岡田准一の青臭い真っ直ぐさが、いい感じに融合しての心地良い雰囲気があった。
3年という期間を2時間で描くため、季節の変化をカットで行うのだが、普段の時間の変化も同様な切り替えがあったので戸惑う事があったのは確か。でも、自然の描写は美しくて、この映画の穏やかさの演出の助けになっていたのではないか。
やはり、旧き日本映画らしい空気感の作品で楽しんで観る事ができた。<以下核心メモ>
予告で白袴を着て歩いていく秋谷のシーンがあったけど、それがラストカットだったというのはちょっと感心できない。まぁ、そこから更に至る物語と思っていたものが、そこが着地点という予想を外すという意味ではいいのかもしれないのだが。
秋谷が切腹を命じられたのは先君の本妻と側室を巡る騒動であり、そこに家老と商人が身分を偽って輿入れさせたというスキャンダルにまで至るというものなのだが、そのゴタゴタから藩を守る為に切腹も受け入れる男の姿を描くという流れは実に日本的。
但し、単に受け入れるのではなく、貰った時間の中で家譜の編纂という為すべき事があり、それがその後の藩の為になると信じていたからこその覚悟であったのだろう。