バンクーバーの朝日

テアトル8、評価★★★
大戦前の時代、カナダに移住した人たちによって結成されたバンクーバー朝日という野球チームを描いた物語。解説を読むと、その活動期間はだいぶ長いものであったらしいけど、映画はその中の1年を題材にして、チームの要素を凝縮した様なもの。
バントや走塁を生かした頭脳プレーでの野球での勝利を描いた物語ではあるのだけど、その根底にあるカナダ人からの差別や遠く離れた日本が戦争に進むのに翻弄される様を描いたもの。妻夫木聡が演じるレジー笠原を主人公としながらも、そのキャラクターに寄り添うのではなく全体を俯瞰しているような雰囲気であり、予告の印象とは異なって感動させようとする意思が薄く淡々と描いている様に感じられ、むしろ好感を持って観る事ができた。細かいシーンの切り替えからもそんな雰囲気が感じられるのだけども、その中にいくつかあった長回しが、ポイントとなる内容でもあった事もあって、実に印象に残るものになった。
妻夫木聡亀梨和也という2枚看板を立てた配役だけども、周りも実に多彩でオールスターキャストの様相を呈している感も。ただ、全体を俯瞰するという作りもあってか、周囲の配役も豪華すぎて映画の中では余計な回り道をしている雰囲気があったのは否めない。バンクーバー朝日を見守る様に球状の外から観戦する娼婦を演じた本上まなみはまだしも、日本語学校の教師を演じた宮崎あおいは存在感がありすぎたかと。予告の印象だと、球団のメンバーと関わりがあるのかと思ったのに、そんな気配も無いという。
とにかく、外国で活躍した日本人の野球チームの物語だけでなく、その当時の雰囲気も含めて感じられる様な映画であったのは確か。<以下核心メモ>
バント中心のプレーで勝利を納めるのが着地点と思いきや、それは物語の転換点でありリーグの優勝まで描くというもの。優勝を決める戦いでは、バントを読まれていたのをヒッティングでバントシフトのサードを抜ける攻撃にはなったのだけど。その勝利を決めるシーンでレジーの周りが無音になるのが印象的。この映画ではバンクーバー朝日の初得点から初勝利、そして優勝を描くのだけども、それらに慣れていないチームの"どう反応していいか判らずに右往左往する"感じが何度も出てくるのだが、それが妙に面白いというか。
カナダ人から受けていた差別として、レジーの妹であるエミーが日本人であるが故に奨学金を受け入れられなかった事が描かれるが、デッドボールを発端とした乱闘事件での出場停止が解けたチームのミーティングにてエミーが思いを述べるシーンの長回しが素晴らしい。ここで、エミーの歌う"Take Me Out To The Ball Game"が妙に胸に響いた。続けて、乱闘事件の相手に謝ったレジーとロイが野球を続けようとする想いの感じられるシーンの長回しも素敵だった。
物語はチームの栄光で終わるのではなく、日本による真珠湾攻撃でによって移民が強制収容所に送られるシーンで終わるのだけど、それによってその時代の不安定さと、別れ際の台詞で野球への想いが語られているから、この映画の終幕としては当然の形なのであろう、と。