風立ちぬ

テアトル6、評価★★★★
宮崎駿監督の久しぶりの新作という事で。零戦の設計者、堀越二郎氏の半生を描いたフィクションというもの。原作ともなるモデルグラフィックス誌での連載は手持ちにあった1回だけだったけど、「紅の豚」と同様に全く雰囲気は異なるもの。絵の雰囲気は勿論だけど、作家の堀辰雄の人生も重ねて繁栄させている事もあるが。
太平洋戦争前の時期という緊張感や、恋人との悲恋で起伏の激しいものかと想像していたのだが、あくまでも二郎の美しい飛行機を作りたいという真っ直ぐな想いと、それと同じくらいに愛して妻となる菜穂子への真っ直ぐな想い描かれ、気付けばあっという間に物語が過ぎてしまった感じ。ただ、前半の飛行機に対し突き進む前半と、菜穂子と過ごす後半の雰囲気の違いは、年齢の割りに変わらないキャラクターを抜きにしても雰囲気が変わったというか。
そんな中で、繰り返し象徴的に差し込まれるのがイタリアの飛行機設計者のカプローニとの不思議な会話というか空想。ただ、このシーンがある事でどちらかというと寡黙な二郎の内面を上手く描いていたというか。雑誌連載を読み返すと同様のシーンがありキーとなる台詞も書かれているのだけど、映画での見せ方のほうが穏やかだけども意志が感じられるというか。しかし、これらのシーンで多数出てくるイタリア機は監督が描きたかったんだろうなぁ、と思わずにはいられないw
大人な物語ではあるけど、メッセージも強い物語であるので、キャラクターを狙ってない子供が観ても楽しめるというか、後年見返して考えられる…って作品だと思ったり。
二郎の声を庵野秀明監督が演じていたのだけど、最初以外は普通だったというか。最初も悪いというより、台詞の印象だった様な?まぁ、パンフレットにもあったけど、無理に演技をしなかったのが上手くはまってた…というところ。<以下核心メモ>
結核である事を承知したうえで、菜穂子と夫婦になった二郎。山の療養所から一目会いたい下りてきて、そのまま黒川宅での結婚に至るのだが、ここでの着飾った菜穂子は実に美しい。そして、病の身でありながら初夜を迎えるいじらしさというか。結婚式のくだりは、急遽仲人になった黒川夫妻の優しさがまたいいんだよね。
自宅で療養する菜穂子と夜遅く帰って持ち帰った仕事を互いの片手を握りながらするシーンは胸を熱くする。そして、九試単座戦闘機の試験飛行の日に"美しい時だけを見てもらいたい"という思いで、一人で山の診療所に戻る菜穂子のシーンヘ。ここまで来で、黒川に結婚の許しを得る時の"時間が無いのです"の意味が増すというか。
ラストは一気に終戦の時期へ。飛行機の墓場から転じたカプローニとの夢が最後となるのだが、ここでは美しいままでの菜穂子が現れるけどすぐに風の様に飛んでしまう。更に、カプローニとの別れも示唆され二郎にとってのひとつの時間が過ぎたのだろうな、と素直に感じられるままに終劇へ、と。