イン・ザ・ヒーロー

テアトル8、評価★★★★☆
スーツアクターを主人公にした物語。ヒーローものやアクション映画に関する映画だと思っていたけど、見事なまでの日本的な映画賛歌。スーツアクターといういわば裏方をメインに据えた話だけに、必然的に映画やドラマを作る現場からの視点が多くなるのだけど、丁寧に描かれていた気がする。
丁寧と感じたのは映画の裏側だけでなく、脚本自体も近年の邦画としては実に丁寧な構成になっていたと思う。スーツアクターとしての思い、新人俳優の夢と願望、夫婦や親子という家族の話、日本的なものとハリウッド的なものの映画の違い…という要素が多いながらもキレイに絡まって流れていたと思える。
主人公たるスーツアクターの本城渉を演じるのが唐沢寿明。古くはスーツアクターとしてもやっていたという話は聞いていたけど、劇中で見せるアクションは確かに素晴らしい。謙虚さと力強さが同居する振る舞いでの存在感は見事。そして、若手俳優として登場するのが、仮面ライダーフォーゼを演じていた福士蒼汰が新人の一ノ瀬リョウを演じるのだが、生意気な前半から成長した後半までの演技が見事。更に長い手足を魅せるアクションも素晴らしく、ライダーの時から大きく成長したと感じるもの。その2人を絡めての"ベテランとルーキーもの"という面もこれまた面白い。
とにかく、戦隊やライダーが好きな人や映画が好きな人は素直に楽しめるんじゃないかと思えるもので、自分にとっては大きな満足となった映画だった。<以下核心メモ>
クライマックスは劇中の映画監督の無理によって行われる長回しのアクションに本城が挑むという流れ。かなり無茶苦茶な展開ではあるものの、忍者100人斬りは撮影風景と最終イメージが混ざる様な不思議だけど素晴らしいもの。やはり、冗長的に感じるところや、ハリウッド作品というには日本的な殺陣での演出と引っかかるところが無いわけではないが、やはりそのインパクトの前には些細な事か。まぁ、特別出演の松方弘樹が目立ちすぎだな、というのも含めてね。
リョウは幼い弟や妹と共に暮らしており、去っていった母親にメッセージを伝える為にハリウッドで成功するという夢をもっているのだが、自信があったアクションが全く通用せずに苛立った時、妹にきつく怒鳴って公開するシーンが妙に響いた。内面としても、そこが転機であったわけだし。
定石通りの流れとはいえ、反対しながらも決死のアクションを行った本城に駆け寄る妻の凛子、そしてその時の怪我でベットに寝る状態になりながら家族がまとまるのは気持ちがいい。そこに辿り着く流れが実にスムーズ。そして、その中である意味で凛子が本城の元に来る切欠となった相手を演じた及川光博の典型的なイヤミな存在感がこれまた素晴らしい。
劇中劇のドラゴンフォーでピンクを演じたのは、身長も踏まえて寺島進演じる吾郎という事で"女性戦士の中身は男性"というある種のパターンを踏襲していたのだが、ブルーに入っていたのが黒谷友香演じる美咲というのが面白いなぁ…と思ったのだが、やはり実際のスーツアクターとしては女性が男性戦士の中に入るという例は無かった様で。