グラン・トリノ

テアトル8、評価★★★★★
イーストウッドの監督&主演の最新作。78歳のイーストウッドが、同年代の老人を演じ、そして描いている事が、まずは素晴らしい。自分の歳や、その雰囲気を隠す事無く存分に見せる姿勢には感服するばかりで。
タイトルとなったのは、主人公のウォルトが所有し、そして朝鮮戦争から期間後の工場での働きでステアリング部分を組み立てたという経緯のある、フォード製の自動車の事で。正にベトナムを経て、自動車大国であった、強いアメリカの象徴とも言えるだろうか。
そのアメリカ的な男が、周囲に暮らすアジア系の住民、特に隣の少年と接する事で・・・というのが物語りになるのだが、前半のユーモアを交えた展開から、後半の重さ、そしてオールハッピーではなく清々しさの中にどこか後味の悪さを残しているのも実にイーストウッド的。
1人の老人とアジア系の少年の関わりを描きながら、人間が生きていくという姿と生と死というものを描いており、心に響くものがあった映画であった。<以下核心メモ>
少年との交流と共に描かれる、ウォルトと移民系住民の友人達とのやりとりが実に軽妙で楽しい。が、その楽しさがあるからこそ、最期に近づいた時に床屋に行ったり服の直しなんかをするシーンに重さが出てくるわけで。
タオに近づくチンピラを排除するために銃で脅しをかけた事が、タオの家への銃撃や、姉のスーへの従兄弟からのレイプと暴力と言う結果に陥ってしまうわけで。それへの報復としては、ずっと見せ付けていた銃での襲撃・・・と思いきや、自分がチンピラ達に撃たれる事で、彼らを刑務所に送る・・・という選択を取るのが、今までのイーストウッドのキャラと違い、病気持ちで死を意識した老人の姿だったんだろう、と。
タイトルにも冠され、物語の所々でキーとなるグラン・トリノは遺言でタオに譲られ、それをタオが運転して去っていくシーンで終わるのは、2人の時間の流れを示している様で。そして、そのバックにながれる、そのクルマを歌った歌がまたいい余韻となっていた。