日本のいちばん長い日

フォーラム6、評価★★★☆
終戦に至る出来事を描いた物語。1967年版があるのだが、それを今この時代に改めて映画として作る意義はあるのだろうかと思うところではあるけれど、観終わってみると両者の性格の違いがはっきりして別であるべきなのだなぁ、と。旧版が正に8/14から8/15までの1日を克明に圧倒的な熱量で描いたドキュメンタリー的なものとしたら、新版は鈴木貫太郎内閣の組閣から始まり、終戦までを人を通して俯瞰的に描いた様な作品に思えた。
特に、英題に"THE EMPEROR IN AUGUST"とある通りに昭和天皇へのクローズアップが多く、昭和の時代の数々の映画ではイメージ的で正面から描く事をしなかったものを、じっくり描いてみせたというところがポイントとなるのだろう。昭和天皇と鈴木総理、そして阿南陸軍大臣の関係性は面白いものであった。本木雅弘の演じる昭和天皇は、ざわついた時代の中で静かな存在感というものを存分に醸し出していた。家族と過ごすシーンを見せる阿南や鈴木総理のシーンでの人間としての描き方も、事件だけでなく人間を描くという物語を現している様に思えた。
そうなると、宮城事件を起こした若い軍人達の描写はあそこまで必要であったのか、もうすこし割り切ったものでもよかったのではと思ってもしまうが、彼らの真っ直ぐな思いからの行動があってこそ、天皇の御聖断が重みを増すというもので。
旧版をふまえると、「これは無いのか」と残念に思うところもあるけど、今作った意味や意義が感じられ、映画としても魅力的な作品であった。<以下核心メモ>
阿南の妻の役割が大きくなっており、次男の死に様を知り阿南に伝える・・・という要素が、その夫婦を現すものであったと思う。次男の戦友が訪れた事も、切腹後の阿南のところに妻が訪ねたのも事実であるらしいが。
ちょっと意外だったなぁ、と思ったのが東條英機の登場。勿論、登場してもおかしくはないのだけど、昭和天皇と戦争終結についてあれだけのやりとりがあったのか・・・と思ったのだが、その辺りは創作なのね。
残念と思ったのは、クーデターが失敗し畑中が自決する前に、悪足掻きでビラを撒く演出が無かった事。ただ、今回の畑中は演じた松坂桃李の風貌も相俟って、それほそ狂気を前面に出してはいないので、その行く末を描く自決シーンだけなのは妥当であるのだろうが。